韓ドラの罠
韓国映画に興味を持ち、ついには泥濘(ぬかるみ)に誘われるように韓流TVドラマの罠に足を捕られています。
知人のなかで、相方が韓流ドラマにハマりエラい目にあっているご主人を幾人か知っています。
奥さんが、韓国TVドラマの俳優「ヨン様」や「ビョン様」の追っかけになり、あげくの果てに年に数回は韓国旅行に出かけたりで日常生活に支障が出るほど韓流にどっぷり。
子供のいない夫婦だけの家庭に、良くも悪くも多大な影響が出ているとこぼす和風レストランのシェフ。
おかげで韓国料理のレパートリーが増えたようなのですが。
夫婦のコミュニケーションにも影響が出るとグチをこぼすけれど、年に一度は韓国旅行に同行したりと、まんざらでもなさそうな彼らを見て、何なんだろうかなぁ、と日頃から不思議だったのですが・・・。
その僕が、うっかりハマってしまいました。
本人にとんと自覚が無いのですが、女房と娘にいわせると女優シム・ウナのキモ・オタ(キモいオタク)なのだそうです。
既に韓国芸能界を10年も前に引退した女優さんをDVDビデオで追っかけをするというのも、ピント外れな僕ならではということでご愛嬌かとも思うのですが。
伝説の女優といわれるシム・ウナの主演映画、「八月のクリスマス」「美術館の隣の動物園」「カル」「インタビュー」とたて続けに観て、かつて韓国には凄い女優がいたのだと感心したのが事の発端。
その余勢を駆って、シム・ウナ主演の最後のTYドラマ「青春の罠」全24話をTSUTAYAのネットレンタルで借りて一気に観ました。
この長いドラマ、正直いうと主演がシム・ウナでなかったら3話までもいかずに早々にギブアップしただろうと思います。
もの静かで清楚な役どころの彼女が、青春をかけて尽くしたにもかかわらず婚約者に裏切られ、その彼との間に出来た娘も事故で失い、心がボロボロになった彼女が復讐するという俗っぽいストーリー。
韓国のお茶の間で、最終回には50%を超える高視聴率を記録したそうです。確かに役になりきったシム・ウナのメリハリの効いた上手い演技とナチュラルな美貌が際立っていました。
シム・ウナという女優によって、人間が本来持っている優しさや慈悲の心、それが裏切られ暗転した時に見せる復讐心の残酷さ、そして愚かな復讐を後悔する主人公の心情が見事に演じられていると思います。
シム・ウナに感じる凄さは、役になりきれる集中力なのだと思います。この作品のみならず、ほぼ全ての作品において見られる、役づくリに徹する姿勢はまさにプロ意識の塊。(この純粋さが時には誤解され後に芸能界引退に繋がったのかもしれません)
時には可愛く勝ち気な駐車違反取り締まり官に(八月のクリスマス)、時にはがさつなビデオカメラマンに(美術館の隣の動物園)、又ある時には背筋も凍る美貌の猟奇的殺人犯に(カル)。
どう演じても唯一無二のシム・ウナなのですが、役に入りこむと実に違和感が無いのです。例えていうなら上質で万能の白い下地を施したキャンバスという感じ。
淡くて清楚な水彩画でも、こってりと重厚感のある油絵でも、どんなタッチの絵でも見事に再現してみせるような強靭で柔軟な画布という印象です。
演技派と呼ばれる日本の女優さんでも、様々な役をするけどワンパターンで、それが個性だと勘違いされている方もおられるようですが、そんな女優とは一線を画す才能をお持ちだと感じました。
彼女の映画作品はたったの7本ですが、TVドラマの出演作品は映画よりも少しはボリュームもあって多彩なようです。
「白夜」「M」などまだまだ仕掛けられた「韓ドラの罠」に自らハマっていきそうな予感。